雨読





近世氷見出身者古書目録


 近世の越中は「学国」と称されることがあった。それは浄土真宗本願寺派において、多くの学僧が越中から輩出し、本山の学林で活躍していたからだった。
 中でも氷見は「学国越中」の発祥地と言われ、西光寺の学塾「尺伸堂」・円満寺の学塾「大心海」を中心に門弟が育成され、尺伸堂学派と呼ばれる一派を形成していた。今日残されている氷見出身者の古書のほとんどは、この学派に連なる僧侶のものであった。第五代能化に就任した義教を筆頭に、善意(芳山)・義霜等の著述が、刊本あるいは写本の形で公にされている。
 とりわけ当時は、各宗派において教学の研究が発達し、しばしば他派と論戦を交えることもあった。義教の『浄土真宗諭客編』『輪駁行蔵録』『千五百条弾憚改』は、日蓮宗からの論難に応じたものであり、善意の『評偽弁』『慧日霜露篇』などは、真宗大谷派の学僧と論争したものだった。
 ただし氷見におけるこのような学問の興隆は、あまり永く続かなかった。義霜の頃、「三業惑乱」という近世本願寺派で起こった大騒乱の際、尺伸堂学派は異安心とされ、以後急速に活動が途絶えてしまう。このとき義教の『閲寮壁聞』・善意の『白糸篇』も、幕府の命で絶版に処せられてしまった。
 しかし義教や善意の著述が、それで完全に生命を失い散逸してしまったわけではない。いくつもの作が今日においても学問的な評価を受けて、『真宗全書』などの叢書中に翻刻され、読み継がれている。


 [凡例]

 ※ 記述は書名・読み・刊写者・刊写年・寸法・その他の順とした。
 ※ 配列は刊写年順とし、刊写年が不明なものは五十音順とした。
 ※ 字体は原則として常用漢字の表記に従った。
 ※ 目録等に書名が見えても原本を確認できなかったものは「存目」に収めた。
 ※ (仏書)は『仏書解説大辞典』、(学匠)は『真宗学匠著述目録』、(空華)は「空華」
  第四号第一巻を示す。




  義 教 (円満寺・浄土真宗本願寺派) (号)易往閣 (諡)泰通院


 [ 刊 本 ]


浄土真宗諭客編(ジョウドシンシュウユキャクヘン)
 富山 中嶋又兵衛 元文三年(1738) 26.1×18.1p
 近世活字本 刊記「雕割所 越中富山住古鍛冶町角 中嶋又兵衛」
※『浄土真宗教典志』巻二「元文三年戊午四月、円満寺義教作。密徒月海浄教を貶斥し、及び金橋山千手空遍『禅客鸞徒破会評決』を著し、真宗を謗〓す。故に此を作り之を弾ず」『真宗全書』巻六十所収 龍谷大学蔵
 〓:『大漢和辞典』10巻423頁35344番 「今昔文字鏡」@035344


輪駁行蔵録(リンバクギョウゾウロク) 五巻
 大阪 大野木市兵衛 京都 河南四郎右衛門 西村与右衛門
 延享元年(1744) 25.7×18.0p 善意と共著
※『浄土真宗教典志』巻二「日蓮宗贋徒『決権実義』を著し、『諭客編』を破す。故に抱質(僧樸)等、円満寺義教・西光寺芳山をして『決権実義』を輪次評駁せしむ。其の所説を記し、以て斯の録と為す。寛保三年癸亥九月成る」 龍谷大学・大谷大学・氷見市立図書館蔵


千五百条弾憚改並縁起(センゴヒャクジョウダンダンカイ) 十一巻
 京都 河南四郎右衛門 西村与右衛門
 寛延二年(1749) 27.0×18.6p
※『浄土真宗教典志』巻二「延享二年丙寅九月、越中富山府海秀山仁諦院博善日芳『訶責謗法鈔』を著し『行蔵録』を破す。故に義教此書を作り之に報ず。寛延二年己巳二月成る」 『真宗全書』巻六十所収 龍谷大学・大谷大学・氷見市立図書館蔵


愚禿鈔摸象記(グトクショウモゾウキ) 六巻
 京都 丁子屋九良右衛門
 安永九年(1780) 25.8×18.4p
 別名「二巻鈔摸象記」
※『浄土真宗教典志』巻二「摸象記八巻 講主越中氷見円満寺泰通院義教作。安永九年庚子六月梓行」「摸象記六巻 義教作刻草本」(巻二別本) 『真宗叢書』巻九所収 龍谷大学・大谷大学・氷見市立図書館蔵(なお大谷大学・氷見市立図書館蔵本は、円満寺蔵版となっている)


閲寮壁聞(エツリョウヘキモン)
 京都 河南四郎兵衛 永田勘兵衛 永田調兵衛
 寛政五年(1793) 26.0×18.2p
 題簽「南〓1塵壷 北〓2偶談 合本」(巻末に『閲寮壁聞』が合刻)
※龍谷大学・大谷大学蔵 本書は三業惑乱関連書として、文化三年(1806)に幕府の命で絶版となっている。
 〓1:『大漢和辞典』7巻603頁19883番 「今昔文字鏡」@019883
 〓2:『大漢和辞典』8巻684頁25635番 「今昔文字鏡」@025635

勧学序(カンガクジョ)
 京都 龍谷学黌蔵刻 和州釈聞号謹校 学林御用達桐山喜六施本
 文政四年(1821) 22.9×25.1p
※龍谷大学蔵


 [ 写 本 ]


観無量寿経聞書(カンムリョウジュキョウキキガキ) 四巻
 仰誓師記 寛延二年(1749) 26.8×20.0p
 書外題「観経教演記」
※『浄土真宗教典志 巻二』「義教作」 龍谷大学蔵 本書は『妙好人伝』の編者として著名な仰誓が、義教の講義を筆記したもの。


愚禿抄聞香記(グトクショウモンコウキ) 四巻
 宝暦十一年(1761) 23.5×
※大谷大学蔵


来不来問答料簡(ライフライモンドウリョウケン)
 宝暦十三年(1763) 24.0×17.1p 仮綴本
 巻末「于時宝暦十三年午歳弥生下旬於浄蓮閣書写之者也」
※氷見市立図書館蔵


大無量寿経聴講録(ダイムリョウジュキョウチョウコウロク) 四巻
 明和二年(1765) 23.5×16.6p
※龍谷大学蔵


本尊義破邪顕正(書外題)(ホンゾンギハジャケンショウ)
 [明和四年(1767)](仏書) 27.0×20.3p
※『浄土真宗教典志』巻二「義教作」 『真宗全書』巻四九所収
 龍谷大学蔵


王本願唱録(書外題)(オウホンガンショウロク)
 沙門義聞[写]
 [天明六年(1786)] 24.5×17.2p 仮綴本
 巻末「明六丑ノ歳 沙門義聞」
※氷見市立図書館蔵


四十八願講録(シジュウハチガンコウロク) 四巻
 寛政九年(1797) 27.5×19.0p
 巻末「寛政九己未 入蔵 廓静役中」
※龍谷大学・大谷大学蔵


観無量寿経聞書(カンムリョウジュキョウキキガキ) 四巻(六冊)
 [釈諦観] 文政六年(1823) 23.5×16.5p
 題簽「観无量寿経〓露記」
 巻末「于時文政未 秋七月焉(ママ)之者也 釈諦観所持」
※龍谷大学・大谷大学蔵
 〓:『大漢和辞典』12巻377頁44022番 「今昔文字鏡」@044022


[観経四帖疏講録](カンギョウシジョウノショコウロク) 十三巻
 27.7×18.7p
 題簽「観経玄義分講録 巻第一〜七
    観経序分義講録 巻第一
    観経定善義講録 巻第一・二
    観経散善義講録 巻第一〜三」
※『真宗全書』巻十四所収 龍谷大学蔵


観経依釈(カンギョウエシャク) 六巻
 24.8×16.2p
※『真宗全書』巻四所収 龍谷大学蔵(この他に三冊本あり)


愚禿鈔草書(グトクショウソウショ) 二巻
 24.0×17.5p 仮綴本
 巻末「愚禿鈔聞書 円満寺義教師講録」
※氷見市立図書館蔵


愚禿鈔摸象記講記(グトクショウモゾウキコウキ)
 24.1×17.1p
※龍谷大学蔵


愚禿鈔聞記(グトクショウモンキ)
 今石動 光顔精舎輪応写
 24.1×17.9p 仮綴本
 書外題「浄土愚禿鈔録 闕本」
 巻末「越之中州今石動 光顔精舎輪応写」
※氷見市立図書館蔵


小本浄眼録(書外題)(ショウホンジョウゲンロク) 二巻
 25.8×19.2p
 別名「阿弥陀経浄眼録」
※『浄土真宗教典志』巻二「義教作」 龍谷大学蔵


入出二門偈頌聞書(ニュウシュツニモンゲショウキキガキ) 四巻
 仰誓記
 24.1×17.0p
 書外題「二門偈聞書」
※龍谷大学蔵 本書は『妙好人伝』の編者として著名な仰誓が、義教の講義を筆記したもの。


入出二門偈講録(ニュウシュツニモンゲコウロク) 三巻
 24.0×17.6p
※龍谷大学蔵


論註講録(ロンチュウコウロク) 六巻
 27.1×18.8p
 別名「往生論註講録」
※龍谷大学蔵 『浄土真宗教典志』巻二に「義教作」とある『往生論註講義』六巻と同本か?


 [ 存 目 ]


阿弥陀経講義(アミダキョウコウギ) 六巻 (学匠)

観無量寿経聞記(カンムリョウジュキョウモンキ) (学匠)

願文講記(ガンモンコウキ) (仏書)

愚禿鈔隔掻記(グトクショウカクソウキ) (学匠)

四十八願勧化鈔(シジュウハチガンカンゲショウ) (学匠)

第十八願成就文聞熏鈔(ダイジュウハチガンジョウジュモンモンクンショウ) (学匠)

本尊義対弁(ホンゾンギタイベン) (学匠)

無量寿経願文講解(ムリョウジュキョウガンモンコウゲ) 四巻
※『浄土真宗教典志 巻二』「越中円満寺義教作」 (仏書)

唯識論講録(ユイシキロンコウロク) (学匠)




  善 意 (西光寺・浄土真宗本願寺派) (号)芳山・無人閣 (諡)明達院


 [ 刊 本 ]


輪駁行蔵録(義教の項を参照)


白糸篇(ビャクシヘン) 三巻
 京都 丁子屋九郎右衛門 北村四郎兵衛 銭屋荘兵衛
 天明元年(1781) 26.2×18.2p
 題簽「真宗白糸篇」 附録「信願開合集・弁致請篇」
※『浄土真宗教典志』巻二「越中氷見西光寺芳山善意作。法義如干条を論ず」
 本書は三業惑乱関連書として文化三年(1806)、幕府の命で絶版に処せられている。
 龍谷大学・大谷大学蔵


芳山小部集(ホウザンショウブシュウ)
 高岡 越中真宗史編纂会
 昭和十四年(1939) 22.5×15.2p 洋装本 鉛印
 越中先哲叢書 一
 内容「尺伸堂学則・為法五ヶ条・真宗僧儀・新学教誡・安心或問
(法の友)・講中への法語・教誡坊守・弁致請篇・檀家式」
※氷見市立図書館(覆製本)・高岡市立図書館蔵


 [ 写 本 ]


〓面録並叙(ダメンロク)
 弟子若揖等録
 宝暦十三年序(1763) 23.6×16.6p
 題簽「唾面録」
※龍谷大学・氷見市立図書館蔵 若揖は善意の法嗣。
 〓:『大漢和辞典』7巻5頁17596番 「今昔文字鏡」@017596


剥妄偽(ハクモウギ)
 明和元年(1764) 23.8×17.8p 仮綴本
 巻末「明和元年八月日 唾面録者書」
※氷見市立図書館蔵


評偽弁(ヒョウギベン)
 明和八年(1771) 23.6×    p
 巻末「明和八年卯十二月」 巻頭に解題あり
※『浄土真宗教典志 巻二』「明和六年己丑六月、無名子作。前年六月東門越後の法義異諍判牒義を評駁す」「明和六年六月、西光寺芳山作。前年六月東門越後の法義異諍判牒義を評駁す」(巻二別本) 大谷大学蔵


安心或問(書外題)(アンジンワクモン)
 安永二年(1773) 23.5×17.7p
 巻末「安永二年二月日 芳山善意□□(老衲)書/ 与八木治部進殿」
 別名「法の友」
※龍谷大学蔵 善意自筆本か?


檀家式(ダンカシキ) (『小部集』所収)
 宝幢寺現住霊巌
 天明三年(1783) 27.0×19.6p
 巻末「天明三年癸卯仲夏中浣写之畢 宝幢寺現住霊巌」
※『芳山小部集』所収 龍谷大学蔵


安楽集述聞(アンラクシュウジュツモン) [五巻]
 寛政七年(1795) 23.6×16.5p
 巻末「寛政七卯四月下旬八日写」
※『真宗全書』巻十二所収 龍谷大学・大谷大学蔵


三帖和讃天而於波秘伝(サンジョウワサンテニオハヒデン)
 信定寺釈慈善
 享和三年(1803) 23.5×16.7p
 巻末「于時享和三亥孟春下旬第三日於北〓之下写之畢/信定寺釈慈善」
※龍谷大学蔵
 〓:『大漢和辞典』8巻684頁25635番 「今昔文字鏡」@025635


疑仏智讃録(書外題)(ギブッチサンロク)
 今石動 養谷堂隠者円称
 弘化四年(1847) 24.3×18.1p 仮綴本
※氷見市立図書館蔵


慧日霜露篇(題簽)(エニチソウロヘン)
 23.6×16.0p
※『浄土真宗教典志』巻二「芳山作。弾評偽弁に報ず」 大谷大学蔵


信願開合集(シンガンカイゴウシュウ)
 23.8×17.2p 仮綴本
 巻末「氷見西光舎 無人閣尊宿著」
※『白糸篇』に合刻 氷見市立図書館蔵


真宗白糸論(シンシュウビャクシロン) 三巻
 24.1×17.8p
 書外題「白糸論」
※龍谷大学蔵 刊本の『白糸篇』とは編目が異なり、ほとんど別本と言って良い。刊本は善意の没後、編集を経て梓行されており、本書がその原型であった可能性が高い。


大経弘願釈(書外題)(ダイキョウグガンシャク) 七巻
 23.6×17.5p
 別名「無量寿経弘願釈」
 首題「大無量寿経 玄談         (大経弘願釈 玄談)
    仏説無量寿経 巻上 弘願釈 巻一 (大経弘願釈 一)
    仏説無量寿経 巻上 弘願釈 巻二 (大経弘願釈 二)
    大無量寿経 巻上 弘願釈 三   (大経弘願釈 三)
    仏説無量寿経 巻上 弘願釈 巻四 (大経弘願釈 四)
    大无量寿経 巻下 弘願釈 巻五  (大経弘願釈 五)
         (首題欠)       (大経弘願釈 六)」
※『浄土真宗教典志』巻二「越中西光寺芳山善意作」 龍谷大学蔵


 [ 存 目 ]


阿弥陀経述聞(アミダキョウジュツモン) 三巻 (学匠)
※『浄土真宗教典志 巻二』「芳山作」

観経四帖疏助考(カンギョウシジョウノショジョコウ) 四巻 (空華)

観経四帖疏証定鈔(カンギョウシジョウノショショウジョウショウ) 二六巻 (学匠)

正信偈帰仰録(ショウシンゲキギョウロク) 四巻 (学匠)
※『浄土真宗教典志 巻二』「芳山作」

浄土略名目図略疏(ジョウドリャクミョウモクズリャクショ) 二巻 (仏書)

真宗略名目図略疏(シンシュウリャクミョウモクズリャクショ) 二巻 (学匠)

善意詠歌集(ゼンイエイガシュウ) (仏書)

弁致請篇(ベンチジョウヘン) 『白糸篇』に合刻・『芳山小部集』所収




  義 霜 (西光寺・浄土真宗本願寺派)


 [ 写 本 ]


大寂定中所現録(ダイジャクジョウチュウショゲンロク) (『説林 坤』所収)
 寛政十一年(1799) 23.5×    p
 巻末「寛政己未之秋八月於平安光徳某館/ 北越尺伸釈義霜書之」
※大谷大学蔵


氷見義霜師会読記(ヒミギソウシエドクキ)
 戸出 報恩寺持浄
 [嘉永元年(1848)] 24.4×18.1p 仮綴本
 内容「言南无者聞書/広本信巻会読」
 巻末「此末廿丁写シ不申。子三月十五日戸出迄遣シ申コト。嘉永元ヨリ九年前ニ逓返仕攸(ママ)コト」
※氷見市立図書館蔵


末代无智章法談(書外題)(マツダイムチショウホウダン)
 氷見 義霜
 24.2×18.2p 仮綴本
 表紙「氷見西光寺義霜師自筆自談記」
※氷見市立図書館蔵 義霜自筆本か?


 [ 存 目 ]


帰命弁絶板書(キミョウベンゼッパンショ) (仏書)

浄土論分科(ジョウドロンブンカ) (学匠)




  玄 天 (円満寺・浄土真宗本願寺派)


 [ 写 本 ]


玄天和尚詩集(書外題)(ゲンテンオショウシシュウ)
 時丸
 嘉永五年(1852) 16.9×13.2p 仮綴本
 巻末「嘉永五壬子仲夏 時丸物/ 右氷見円満寺玄天師作」
※氷見市立図書館蔵




  藉 明 (長福寺・浄土真宗本願寺派)
 

 [ 写 本 ]


観経耆闍会文勧章(書外題)(カンギョウギジャエモンカンショウ)
 24.3×17.9p 仮綴本
 巻頭「三十年前法文談名達人也 此時七十余也/射水郡氷見庄日名田村 長福寺 藉明述」
※氷見市立図書館蔵




  空 遍 (千手寺・真言宗)


 [ 写 本 ]


禅客鸞徒破会評決(ゼンキャクラントハエヒョウケツ)
 『浄土真宗教典志』巻二(『浄土真宗諭客編』参照)
※砺波市・千光寺蔵




    ― 2000.1.7 脱稿 ―