古書のとり扱い
はじめに
近年、中小の公立図書館においては新刊書しか収集の対象とせず、古本の中から良書を探すことなどなくなってきた。まして古書となると、高価なこともあって、まったく度外視されていると言ってよい。ただし、数十年以上の歴史を持つ図書館なら、古い蔵書の中や新しく寄贈された資料の中に、必ず日本古来の装丁による、古書を見ることができるだろう。これらの多くは、日頃だれも手にすることなく、書庫の奥で埃にまみれ眠っているに過ぎない。利用されないという点からその価値さえ、正当に理解されていないところが多いかも知れない。しかし古書は比較的新しいものでも百年の歳月を経てきた貴重な文化的遺産であり、これをそのまま後世に伝えることは、図書館という社会的機関に課せられた責務ともいえる。
ただ今日、司書を養成する図書館学のカリキュラムの中で、こうした古書には極わずかしか触れられていない。実際に古書に接し整理作業の手ほどきを受けることなどはまずない。そのため今では古書の扱い方をまったく知らない司書が多くなり、たまたまそれを整理しなければならない機会が訪れたりすると、戸惑うばかりなのではないだろうか。ここではそうした場合に備えるため、通常の図書館でも可能な古書の整理方法を、予備知識も踏まえて概説することにしたい。
ところで長澤規矩也氏は、『新編 和漢古書目録法』において、次のように述べている。
要するに、図書館では、入蔵の書物をできるだけ早く閲覧にまわさなければいけない。精密正確な目録を時日をかけて作るよりも、多少簡略でも、早く閲覧に供するほうがたいせつである。ことに学術研究家の利用を待つ古書についていえば、特別な場合を除いて、編目者 の専門的知識は閲覧者より浅いことが多いはずである。そこで、編目者がいいかげんな推定を加えるよりも、実物でわかるだけ記入して他は専門の閲覧者に任かせるほうが、自他ともに能率的である(文献1-h
P.90)。
本稿の記述も、今日の書誌学における専門的な水準にはとうてい到達していない。ただ現在、多くの書庫で眠っている古書を少しでも専門の閲覧者の利用に供したく、浅い知識しか持たない未熟な編目者が模索した結果を、あえて記すに過ぎない。
T.古書とは何か
通常の出版販売ルートにおいて、現役として扱われなくなった書物を称し、古書または古本という言葉が用いられる。ただし、古書と古本では多少意味する内容が異なり、一般に古書といえば現行本とは形態の違う近代以前の書物を言い、古本とは単に現行本の古くなったものを指す(文献1-c
P.1)。
ところで近世までにわが国で用いられた書物の形態のほとんどは、中国に由来している。またその頃、正式な文書の多くは漢文で記されていた。日本の歴史を研究する際に、時代を溯れば溯るほど、漢籍や漢文の素養は必須のものとなってくる。そこで以下は、古書の歴史を漢籍に重点を置いて見てゆくことにしたい。
1.古書前史−書写材料の変遷
中国においていつごろ文字が出現したのか、いまのところはっきりしない。ただ最近の考古学上の発見によれば、新石器時代にはすでに毛筆のような道具を使用し、陶器の上に符号を描いていたことが確認されている。その後さまざまな材料に文字が記され、最終的には現在のような紙が最も好適な書写材料とされるようになった。
以下、中国における主要な書写材料の変遷を見てゆく。
◇陶器 BC5000〜3000年頃と比定される仰韶文化の遺跡(西安市半坡村)から、符号を有する陶片が100点余り発見されている。ただこれが完全な文字と言えるかどうかはまだ確定していない。これより後の時代、とりわけ周代の陶器にも文字のあるものがしばしば見られる。しかし短い銘文が大半で、陶器が書写材料として広く用いられることはなかった(文献2-bP.65/4-b
P.13)。
◇骨 19世紀末頃から今日まで、文字の記された獣骨や亀甲が河南省(とりわけ小屯村付近 の殷墟)を中心に、次々と発掘されている。これを甲骨文字と言い、約4500字ほど確認され、2000字程度が解読されている。殷周期の史料としては、第一級の価値をもつ。ただし甲骨文字は、占いなど特殊な用途に使われた文字であり、甲骨が当時の主要な書写材料だったわけではない(文献2-b P.26 /4-b P.22)。
◇青銅器 青銅は新石器時代晩期のBC3000年頃から中国で使用されるようになり、漢代以 前の遺跡で銘文の刻まれた様々な形態の青銅器が頻繁に出土している。これを金文と言い、とりわけ周代のものは形態・文字ともに優れて、同時期の史料として第一級の価値をもつ。後漢に入り石が記念碑としてひろく使用されるまで、金文には多くの歴史的事実が記録された。現在およそ3000字が確認され、2000字程度が解読されている(文献2-b
P.46/4-b P.46)。
◇石 2・3世紀頃から石が銘文を刻む材料として広く使われるようになり、その伝統は現代に 至るまで連綿と続いている。この頃には隷書が現れており、字体の点でもいまに通じる。石碑・摩崖・墓誌銘などの形で多くの文章が記され、まれには儒教・仏教・道教の膨大な経典が刻まれることもあった。これを石経と言う(文献2-b P.70)。
◇竹・木 上古より3・4世紀に至るまで、中国における最も主要な書写材料は、竹・木であった。中でも竹は身近にあり入手・加工もしやすく、最初の書写材料だった可能性が高い。木はやや遅れ、漢代から広く使われるようになったらしい。ただし材質上腐食しやすいため、文字を有する竹・木は今のところ戦国時代までしか出土例がない(文献2-b P.99/4-b P183)。
◇絹 絹がいつ頃から書写材料として用いられるようになったかは、今のところまだはっきりし ない。ただし文字を有する絹の最古の出土例はBC5・4世紀に溯り、少なくともそれよりかな り前から書写材料とされていたものと考えられる。 この時期よりAD5・6世紀まで、絹は主要な書写材料のひとつだった。しかし、材質上大変高価だったため、先秦時代において絹は重要な記録に限って使用され、広く用いられるようになったのは漢代の頃らしい(文献2-b P.128/4-b P.188)。
◇紙 紙は一般にAD105年、後漢の蔡倫によって発明されたとされている。 しかし実際には、前漢の時代の紙がすでにいくつも出土しており、発祥の点ではさらに以前に溯る。ただしそれは、蔡倫の手を経て初めて技術的に集大成され、現在の紙のルーツとなったと考えられる。このような紙は、3・4世紀に入ると早くも中国において最も主要な書写材料となり、時代の経過に伴って全世界へと普及してゆく。7世紀には日本やインドへ、10世紀にはエジプト・12世紀にはヨーロッパ・16世紀にはアメリカへと伝えられ、現在に至るまで紙は、書写材料として不動の位置を占めている(文献2-b P.149/4-b P.197)。
※ 皮(ヨーロッパ)・葉(東南アジア)・粘土(メソポタミア)などが書写材料とされた例は、中国においてあまり見られない。
2.古書の形態の変遷
歴史的に見て、じつに多様なものが文字を記す材料として使われてきた。しかしそれらのすべてが書物となったわけではない。例えば陶器・骨・青銅器・石などは、材質の点で不適だった。書物となるためには、相当な分量の文字を記載できる手軽な材質でなければならず、この条件を満たしたのは中国において、竹・木・絹・紙だけだった。ただし竹・木はかさばり絹は高価で、書物に最も好適なのはやはり紙だった。そして紙による書物だけが様々な形態上の変遷を遂げ、現在に至っている。 以下、中国における書物の、主要な形態の変遷を見てゆく。
◇簡策 簡策とは竹・木の長細い札を意味し、これを糸で綴って文字を記した。これを篇という。長文のものは巻いて使っていたと考えられる(文献2-b P.99/4-a P.62)。
◇帛書 帛書とは文字が記された絹のことで、折り畳んだり軸に巻いたりして用いられた。多くは巻物の形態をとり、巻子のルーツであったと考えられる(文献 2-b
P.128/4-a P.112)。
◇巻子装 巻子とは紙をつなぎ巻物としたものを指し、絹を模倣して作られたと されている。紙による書物の最初の形であり、唐代までは概ねこうした形態で使われていた (文献2-b P.149 /4-a P.144)。
◇経折装(折本) 経折装(折本)とは長い紙を交互に折り畳んだものを指し、初め仏典の多く がこの形態であったところから名付けられた。7世紀の頃に寺院を中心としてこう
した書物が用いられるようになった(文献1-f P.77/2-c P.163)。
◇旋風装 旋風装とは経折装に改良を加えて、前後の表紙を背の部分で繋ぎ、閲読の便をは かったものを指す。風などがあると時に折ってある頁が吹き上げられることから名付けられた(文献1-f
P.79)。また、紙を無地の巻子に少しづつずらしながら貼り、巻上げて使用したものも旋風装(竜鱗装)というらしい。これは、巻物から経折へと移行する際の、過渡的形態とされる(文献2-d
P.72)。
◇蝴蝶装(粘葉装) 蝴蝶装(粘葉装)とは紙の文字のある部分を内側に折り、書物の背でのり付けしたものをいう。形態から見ると袋綴じの逆になる。これが書物の歴史上最初の冊子で10世紀にようやく現れた(文献1-f P.82/2-c P.165)。
◇包背装 包背装とは紙の表面を外側に折って、書物の背の部分でのり付けしたものをいう。のり付けした袋綴じの書物。元・明代に多く用いられ、清代の四庫全書もこの形をとっている(文献1-b
P.56 /2-c P.169)。
◇線装 線装とは紙の表面を外側に折って、表紙を当て糸綴じにしたものをいう。糸で綴じた袋綴じの書物。15世紀頃に現れ、清代に入って流行した。書物の形態としては最も進んだものとされ、長期にわたる閲覧・保存にたいへん優れている。現存する古書の殆どがこの装丁を採っており、中国・韓国・日本などで広く用いられた。各国で糸の綴じ方が異なり、それぞれ唐本・韓本・和本と呼ばれる(文献1-b P.58/2-c P.170)。
※ 印刷技術は中国において、唐代の末頃にはすでに発明されていた。これは世界で最も早い木版による印刷の事例だったと考えられている。活字でも中国が最も早く、これまでに知られている4種類の活字が、次の年代にはすでに発明されていたらしい。なお、ドイツでグーテンベルクが活字印刷術を発明したのは、15 世紀中頃の1447年であった(文献2-c P.9)。
・泥活字:11世紀初頃 ・木活字:13世紀頃 ・銅活字:15世紀末頃 ・鉛活字:16世紀初頃
U.古書の種類とその分け方
古書には、大きく分けて和書と漢籍とがある。和書とは、国語もしくは漢語を用いて、日本人向けに著作・編集された書籍を指す。また漢籍とは、漢語を用いて、中国人向けに著作・編集された書籍をいう(文献1-c
P.8/1-i P.4)。 こうした古書の全体像を正しく把握するには、きちんとした資料整理が行われてい
る蔵書の分類項目を参照するのが最も確実であると思われる。近県でよく整った古書目録を発行している公的機関に、福井市立図書館がある。同館では長澤規矩也氏等の手により、昭和55年に目録が作成されている。この『和漢古書分類目録』(文献3-e)は各分野を網羅しながら、量的にもそれほど大部ではなく、手に取りやす
い体裁になっている。そこでここに掲載されている分類表を参考にして、古書の大まかな内容に触れることにする。
1.和書について
和書には歴史的に見て確立した分類方法というものがなかった。例えば中国では隋の頃、すでに「四部分類」(後述)が完成しており、以後現代に至るまで漢籍の分類にはこの方法が用いられている。こうしたものが和書にはなく、各時代の目録編纂者毎に、まったく異なる分類が行われていた。ここでは長澤規矩也氏の紹介により、日本古来の古書分類の歴史を概観することにしたい。
伝存する最古の和書目録は、鎌倉末期の編修とされる『本朝書籍目録』であり、その分類は次のようになっている。
神事 帝紀 公事 政要 氏族 地理 類聚 字類 詩家 雑抄 和漢 管絃 医書 陰陽 人之伝 官位 雑々 雑鈔 仮名 諸家名記(20項目)
ただしこの分類は、今日から見ると項目に収まらない古書があったり、「雑抄 雑鈔 雑々」など、何を分けているのかはっきりしないものがあったりして、適切さに欠けている。『本朝書籍目録』を増補して、寛政3年(1791)に藤貞幹が『国朝書目』を刊行した。その分類項目を列挙すると、次のようになる。
正史 編年 雑史 御撰書并日次御記 日次記 紀行附国字日記 政事附文書 礼儀附凶 事 官位 氏族 人伝附僧伝 天文附陰陽 地理 殿舎附図 鋪設 衣服 飲食 勧誡 故 実 類聚附書目 字書附往来 臨池 画図 管絃 医薬 鷹?(セン) 蹴鞠 薫香 神祇上 神社 旧文 神祇下 神祇雑書 仏事 仏刹旧文 雑書 文集附総集 詩集附総集・闘詩・詩歌 詩文別集 詩文雑書 和歌 連歌附漢和 物語(42項目)
この分類は用語が少々難解で、さらに項目の立て方に精粗の差が見られ、例えば「鷹?」(ヨウセン)などを採り上げる必要があるか疑問に思う。これに比較すると、享和2年(1802)に刊行された、尾崎雅嘉の『群書一覧』は、はるかに整った体裁を持っている。
国史 神書 雑史 記録 有職 氏族 字書 往来 法帖 物語 草子 日記 和文 記行 撰集 私撰 家集 歌合 百首 千首 類題 和歌雑 撰歌 歌学 詩文 医書 教訓 釈書 管絃 地理 名所 随筆 雑書 群書 類従(35項目)
しかし、この分類においても「撰集 私撰 百首 千首」など、項目の立て方に若干の問題が残る。『群書一覧』は明治になって、西村兼文により『続群書一覧』という続編が出された。ここでは、
国史 神書 雑史 記録 有職 補任 系譜 字書 法帖 筆道 撰集 家集 歌学 和歌雑 記行 詩文 医書 教訓 釈書 伝記 縁起 画巻 管絃 地誌 随筆 雑書 (26項目)
となっており、かなり整理されている。ただしそれでも今日古書を分類しようとするとき、収める項目がない書籍が出てくるなど、十分に体系の取れたものとはなっていない(文献1-i
P40)。
現在最も体系的な分類項目に、「内閣文庫国書分類表」(《参考資料》参照)がある。福井市立図書館の『和漢古書分類目録』も同表に従っており、和書についてはこれを基礎資料として分類項目を考えることにしたい。
2.漢籍について
漢籍とは和書に対する呼称で、いわゆる中国人(周辺の民族も含む)のため中国で常用する縦書の文字(漢字など)で記された書物をいう。したがって漢字のみで書かれていても、もともと日本人を対象として著作された書物はその中に入らない(文献2-a
P.1)。このような漢籍を扱う際には、以下の点に注意する必要がある。
◇漢籍の種類
漢籍は、大きく唐本・和本に分けられる。これは刊・写の場所に基づいており、唐本とは中国で出版・書写された漢籍をいう。これに対して日本で上梓された和本でも、その内容が中国人の著作であれば漢籍の中に入れられ、和刻本と呼ばれる。また、唐本の刊本を日本で出版した、翻刻本もある。この他、古来朝鮮半島において刊・写された韓本もまれに見られる(文献2-a
P.6)。
これらの多くは、線装と呼ばれる糸綴じの装丁が施されている。また漢籍の新本には、洋装本と呼ばれる現行の様式の書籍もあり、これは歴史的に見れば一種の包背装ともいえる。さらにふつう洋装本は便宜上、精装と平装に分けられる。
◇漢籍の分類
漢籍は通常、「経・史・子・集」という4分野に分けられており、これを「四部分類」と名付けている。「経」には、『十三経』と呼ばれる13の経典と、その注釈書を集める。具体的には、『易経』『書経』『詩経』『周礼』『儀礼』『礼記』『春秋左氏伝』『春秋公羊伝』『春秋穀梁伝』『孝経』『爾雅』『論語』『孟子』を指して、『四書』(『論語』『孟子』『大学』『中庸』)もここに入る。「史」には中国の歴史・地理関係の書物を集めており、「正史類」「編年類」「紀事本末類」「別史類」「雑史類」「伝記類」「地理類」等の種類がある。「子」には諸子百家など、一つの流派を形成するに至った論説書を集め、「儒家類」「道家類」「兵家類」「法家類」「農家類」「医家類」「芸術類」等がある。「集」には詩・文・詞・曲に関する歴代の文集を集めており、「楚辞類」「別集類」「総集類」「詩文評類」「詞曲類」等の種類がある(文献1-i
P.8/2-d P.204)。
※ なお仏典については分量が少ないなら、中国のものは「子部」の「釈家類」に入れるか、または別に「釈氏」という項目を立て、日本のものは「仏教」の項目を立てて入れる。しかし整理対象の古書全体から見て大きな割合を占める場合は、仏教書を完全に和漢書から独立させ、独自の分類を施すことになる。ただし本稿では煩瑣になるので、仏教書独自の分類項目には触れないことにする。
※ またここでは原則として、刊本を念頭において述べて来た。写本については、概ね刊本の分類項目に従い、目録において写本であることを明記しておけば問題はない。
V.古書を整理するには
以上のように、古書の歴史を概観し、その種類や大まかな分け方について述べて来た。そこで次の段階として、こうした予備知識を用い、実際に古書を整理するにはどのようにしたら良いか考えてみることにしたい。
結論から言えばそれは、大まかに分類を施し、通し番号を付け、目録を作成し、整理番号を決定する、という手順で行うのが合理的であると思われる。従って以下この順番で、具体的な古書の整理方法に触れて行く。
◇分類を施す
数十点程度の古書であれば、手当たり次第いきなり整理しても何 ら問題はない。しかしこれが、数百点・数千点という分量になってくると、色々下準備が必要となってくる。そんな未整理の資料の山を前に初めから一点一点細かい整理をしていたのでは能率が悪すぎる。そこで大まかな仕分け作業から着手することになる。まず和書と漢籍とをその最も粗い分類項目毎に集める。漢籍であれば、上述した程度の「四部分類」を用い、和書については分類表からこれに相当する項目を選んで用いる。古書には刊本の外、しばしば写本が含まれている。写本もそれほど意識して特別に扱う必要はなく、各項目で刊本の後に集めておく程度でいい。また未整理の古書には通常ひどく汚れたものも混じっており、仕分けながら埃を払い風を通すなど、虫干しの意味も兼ねて作業を行う。虫損と湿気で頁が癒着しているものは、ペーパーナイフ・ピンセットなどを使って注意深く頁を開いておき、破損しているものは封筒に入れておく。古書は公的機関などで永年保存する際、仕分け作業の前かもしくは整理作業完了後にでも時期を選んで燻蒸しておく必要がある。こうした仕分け作業をしている内に、バラバラだった多巻物の資料もきちんと集まってくる。仕分けが済んだ時点で、再度細かく分類を行い、資料の所在を明確にしておく必要がある。その際には、『内閣文庫漢籍分類目録』(文献3-a)『内閣文庫国書分類目録』(文献3-b)など、和漢の古書を対象として作成された代表的な目録を、参照しなければならない。
◇通し番号付
分類作業が完了したら、資料に通し番号を付ける。またこのとき、古書に蔵書印などを押しておくと都合がいい。その後、長めの付箋に番号を入れて、どこにどの番号の資料が置いてあるか明示しておく。
◇目録の作成
以上のような作業が完了したら、次は目録の作成に入る。目録に は通常「冊子目録」と「カード式目録」とがある。整理作業中は、加除や並び替えなどが自由に行える「カード式目録」を用いるのが便利であり、最終的に冊子目録まで作成するのが好ましい。ここでは、「カード式目録」の作成方法を概説することにしたい(文献1-h
P.90/1-l P.65)。
※ 「カード式目録」には、図書館で常用されている「ライブラリーカード」と、 博物館などで使用される「資料カード」がある。「ライブラリーカード」は、 やや小型に作られており、古書整理の際に必要な事項を詳しく記述するには適 していない。従ってここでは私案に基づき、自作のカードを用いることにする。
古 書 目 録 カ ー
ド
通し番号: 整理番号: 受入日: 書名(巻・版): 著者名(号):
刊・写: 刊写地: 刊写者: 刊写年(西暦):
丁数: 寸法: 装丁: 注記: ※ 表紙・封面・首目・内題・版式・尾題・跋・刊記・その他
|
[記入要領]
@ 原則として資料1冊にカード1枚使用のこと。
A 多巻物は最初の1冊のみ全て記入して、他は書名・巻数・丁数などに止めること。
B 不明な箇所は空欄にしておき、[ ]で示すこと。
C 原本に記載されていない事項を補足した場合は、その部分を[ ]で示すこと。
[注意事項]
@ 書名は原則として本文巻頭を採ること。
A 巻頭の書名と外題などの書名が異なる場合は、他のものを適宜注記しておくこと。
B 肉筆で外題が記されているものは、「書外題」または「書題簽」と注記すること。
C 刊写者は3人(店)までならそのまま記入し、それ以上列記されている場合は、原則として見返りでは最初の、奥付では最後のものを採り、「〜等」と略記しておくこと。
D 刊記がなく、序文・跋文より刊年を取った場合は、そのことを明記しておくこと。
(例)〜序刊
E 刊刻において後刻の版を扱う場合は、後刻の刊年を採り、初版からの刊年を注記すること。
F 丁数の入っていない資料については、丁数をかぞえ[ ]内に記入すること。
G 寸法はcm単位で、小数点以下1桁(mm)まで記入すること。
例:20.0
(タテ) ×15.5 (ヨコ)
cm
H 和本・唐本・写本などの別を、装丁の欄に記入すること。
I 必要に応じて、表紙・刊記などの記載事項や、資料の状態を注記しておくこと。
(例)その他:「虫損あり」「虫損甚し」
◇整理番号の決定
カード目録を作成したら、最終的な整理番号を決定する。 その際は、該等資料全体の内容・分量などを考慮して、まず適切な分類表を作成する必要がある。通常は内閣文庫の分類表を参照すれば十分で、もし不足な部分があれば、適宜ほかの目録を活用すると良い。分類表が完成したら、次はこれに従いカード目録に整理番号を記す。整理番号は3段階に分け、最初に分類記号を、真中に図書記号を、最後に巻数を入れる。図書記号は分類表に基づき、各項目の中に集められた資料群を、順番に並べることで決定される。この並べ方には、受け入れ順や刊行順などの方法がある。これらの記号をラベルにも転記し、資料1冊毎に1枚づつ貼って行く。そうして最後にラベルの貼られた古書を、適宜表示板なども付けつつ、番号順にきちんと書架へ配置して、整理作業は完了する。
おわりに
本稿は、ここ数年来担当している博物館実習のレジュメを元とし、新たに加筆・訂正して成った。この実習は、古書に初めて触れる学生を対象に、書物の起源とその歴史的変遷を押さえ、伝統的な古書の分類方法について概説し、具体的な整理方法を実物に当たりつつ体験する、という目的で行われた。しかし実際は、指導者自身がまだとても書誌学に精通しているとは言えない水準なので、学生たちと共に学びつつ古書の取り扱い方を暗中模索するというものにすぎなかった。ただこうした取り組みも、未熟ながら5年以上つづき、そろそろ方法論が確立しつつある。
そこで振り返って身近な公立図書館の現状を思うとき、しかるべき水準で古書が整理されているとはとても言い難かった。なんとか目録が作られ、書庫に配架されているものはまだ良いとして、まったく手当をせず死蔵しているものも数多くあった。これを今後きちんと再整理して行くため、古来の伝統を生かしつつ、今日の図書館でも実施可能な方法を模索する意味で、ひとつの拙い試論を発表することにした。識者からご批判を賜れるなら、これに勝る喜びはない。
《参考資料》
「国書分類表」
一、総記 1図書 2事典・事彙 3叢書・全集 4随叢
二、神祇付国学 1総記 2神道 3祭祀 4神社 5国学
三、仏教 1総記 2経・律・論・疏 3儀軌 4宗派 5寺院 6外教 7付録
四、言語 1総記 2文字 3音韻 4語義 5語法 6辞書 7外国語
五、文学 1国文(一)総記付作文(二)小説(三)随筆(四)日記・紀行(五)文集(六)消息 2漢文(一)総記(二)詩文評・作詩作文(三)総集(四)別集(五)日記・遊記(六)狂詩・狂文 3和歌(一)総記(二)歌論・作法(三)撰集(四)家集(五)歌合・歌会和歌 4連歌 5俳諧(一)総記(二)俳論・作法(三)連句(四)漢和・和漢(五)選集(六)家集(七)類題集(八)俳文 6雑俳・川柳 7狂歌・狂文 8古代歌謡 9近世歌謡
六、音楽・演劇 1総記 2音楽 3古代劇 4能楽 5浄瑠璃付人形劇 6歌舞伎 7近代劇 8雑
七、歴史 1総記 2日本史(一)総記(二)通史(三)時代史(四)雑史(五)史論(六)伝記(七) 系譜 3外国史
八、地理 1総記 2日本地誌 3辺防 4外国地誌 5地図
九、政治・法則付故実 1総記 2政治 3詔令・宣命 4法令 5官職 6補任 7典例・儀式
一〇、経済 1総記 2度量衡・貨幣 3領知付分限帳 4地方 5雑
一一、教育 1総記 2教訓 3心学 4教科書
一二、理学 1総記 2天文暦算(一)天文暦法(二)算法 3測量 4地学付鉱物 5物理 6化 学 7博物 8雑
一三、医学 1総記付史伝 2漢方 3蘭方 4和方 5折衷方 6近代医学 7雑
一四、産業 1総記 2農業 3畜産業 4林業 5水産業 6鉱業 7鉱業 8商業 9交通 10物産
一五、芸術 1総記 2書画 3金石 4工芸
一六、諸芸 1総記 2茶道 3作庭付盆景 4華道 5香道 6占卜・相法 7料理付菓子 8 玩具 9遊技 10遊戯
一七、武学・武術 1総記 2兵法 3武具 4剣術 5槍術 6弓術 7馬術 8柔術 9火術 10雑 11近代軍事
○郷土文献
「漢籍分類表」
一、経部 1易類 2書類 3詩類 4礼類 5春秋類 6孝経類 7群経総義類 8四書類 9楽類 10小学類
二、史部 1正史類 2編年類 3紀事本末類 4別史類 5雑史類 6戴記類 7史鈔類 8伝記類 9史評類 10外国史類 11地理類 12時令類 13職官類 14政書類 15詔令奏議類 16目録類
三、子部 1儒家類 2兵家類 3法家類 4農家類 5医家類 6天文算法類 7術数類 8芸術類 9譜録類 10雑家類 11小説家類 12類書類 13釈家類 14道家類
四、集部 1楚辞類 2別集類 3総集類 4尺牘類 5詩文評類 6詞曲類 7戯曲小説類
五、叢部 1経叢 2史叢 3子叢 4集叢 5雑叢 6古逸・覆製 7郡邑 8家叢
《参考文献》
[1.書誌学]
a.書誌学序説/長澤規矩也/吉川弘文館 1970
b.図解図書学/長澤規矩也/汲古書院 1974
c.古書のはなし−書誌学入門−/長澤規矩也/冨山房 1976
d.図解和漢印刷史/長澤規矩也/汲古書院 1976
e.圖書學参考圖録 第一輯〜第五輯/長澤規矩也/汲古書院 1973〜77
f.書誌学序説(岩波全書)/山岸徳平/岩波書店 1977
g.図書学辞典/長澤規矩也/三省堂 1979
h.新編 和漢古書目録法/長澤規矩也/汲古書院 1979
i.新編 和漢古書分類法/長澤規矩也/汲古書院 1980
j.日本書誌学用語辞典/川瀬一馬/雄松堂出版 1982
k.日本古典書誌学総説/藤井隆著/和泉書院 1991
l.書誌学の回廊/林望/日本経済新聞社 1995
m.書誌学談義 江戸の版本/中野三敏/岩波書店 1995
n.日本書誌学を学ぶ人のために/廣庭基介 長友千代治/世界思想社 1998
[2.漢 籍]
a.漢籍整理法/長澤規矩也/汲古書院 1974
b.中国古代書籍史/銭存訓著 宇都木章ほか訳/法政大学出版局 1980
c.漢籍版本入門/陳国慶著 沢谷昭次訳/研文出版 1984
d.漢籍版本のてびき/魏隠儒 王金雨著 波多野太郎 矢嶋美都子訳/東方書店 1987
e.中国目録学/清水茂/筑摩書房 1991
f.漢籍 整理と研究 第1号〜第7号/漢籍研究会 1990〜1997
[3.目 録]
a.内閣文庫漢籍分類目録/内閣文庫 1956
b.内閣文庫国書分類目録(上・下・索引)/内閣文庫 1974〜76
c.京都大学人文科学研究所漢籍分類目録(上・下)/京都大学人文科学研究所 1963・1965
d.和刻本漢籍分類目録/長澤規矩也/汲古書院 1976
e.和漢古書分類目録/福井市立図書館 1979
f.東京大学東洋文化研究所漢籍分類目録/東京大学東洋文化研究所/汲古書院 1981
g.ケンブリッジ大学所蔵和漢古書総合目録/林望 P.コーニツキー/ケンブリッジ・ユニバー シティ・プレス 1991
h.東京大学総合図書館漢籍目録/東京堂出版 1995
[4.その他]
a.文字の文化史/藤枝晃/岩波書店 1971
b.図説 漢字の歴史/阿辻哲次/大修館書店 1989
c.中国古代漢字学の第一歩/李学勤著 小幡敏行訳/凱風社
1990
― 1999.1.11 脱稿 ―
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